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親子三代日本画の新領域を拓く 上村松園の描く女性は清楚で品位がある。 鏑木清方は松園を評して、「いつも堂々と大人の芸境を示しつづけて凡そあぶなっかしいと云ったすきは毛筋ほども見せたことがありませせん」と書き、「もう少し女らしい感傷を欲しいとさえ思はせたこともありました」とも書いている。これは男の視線であろう。 対して松園は「女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない。一点卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のやうな絵こそ私の念願するところのものである。」(青眉抄」)と書き、「その絵をみてゐると邪念の起らない、またよこしまな心を持っている人でも、その絵に感化されて邪念が清められる・・・といった絵こそ私の願うところのものである。」とも述べている。 清方と松園。ともに女性を描いて日本を代表する画家であるが、松園の絵には男の邪念を拒絶する清楚さがあり、それは京都で生まれ育った環境にも影響されて、洗練された女性の繊細な感性とも言えるのではないだろうか。 さらに清方は、「とりわけ目と口の描写で、中でも桃の蕾のやうな唇は貧弱な形容のことばをどう費やしたところで表現出来ぬ美しさでした」とも書いている。その目と口の美しさは他の追随を許さない松園のものである。そして何よりも描く線が美しい。その線の美しさが女性の清楚さや品位を際立たせているのだと思う。 こうした松園の描く女性の美は、松伯美術館に所蔵されている膨大な下絵の中に原点を見つけることができるだろう。 上段の右の絵は大正四年文展に出品した《花がたみ》で、松園四一歳の作品である。左の絵は、その下絵《花がたみ》である。 松園の作品は全国の著名な美術館に多数収蔵されているが、絵の原点とも言うべき下絵は松伯美術館でしか見ることが出来ない。三月二〇日から五月十三日まで開催される「線を極める―一本の線に込められた思いとは―」で松園の絵の原点に触れてみてはいかがでしょう。 下段の《楊貴妃》、《鼓の音》にも松園でしか描けない女性の美が見て取れるし、私は手が好きだ。実に繊細な手である。 この偉大な母・松園に育てられた子息・松篁画伯も日本画家として大成した。 徹底した写実に基づいた格調の高い花鳥画を得意とし、多くの名作を残した。 鳥の写生には松篁のこだわりがあり、奈良郊外のアトリエの敷地に鳥小屋を作り、千羽を越える鳥を飼って鳥の観察を続けたと言う。 ここに掲載した二点は《緋桃》、《雁金》である。鳥の観察から生まれた松篁画伯の花鳥画は、鳥たちの表情を愛情に満ちた筆致で描き、ほのぼのとした世界を伝えてくれる。 哲学者の梅原猛氏は、「上村松篁の花鳥画は、鳥の世界に移された一種の美人画である。」と述べているが、自然―特に梅や桃、水辺、雪化粧など―と配された鳥たちの姿には、母・松園の清楚で品位のある画風をどこかに引き継いでいるようにも思える。 その父・松篁画伯の子息・淳之画伯の絵と出会ったのは5年前であった。 岐阜県下呂温泉の旅館「水明館」に泊った時、女将の滝晴子さんから淳之画伯の鶴の原画を見せて貰った。年賀状に使うのだと仰っていた。雪の中の鶴だった。旅館の画廊にも淳之画伯の絵が展示されていたのを覚えている。その淳之画伯が松伯美術館の館長をされているのを知った。 親子三代にわたり画家であることはそれだけで驚かされるが、花鳥画に独自の画風を確立した淳之画伯の場合は、偉大な祖母と父のもとで育ち、画家を目指すのは並大抵の苦労があったのではないだろうかと思ったりする。江戸時代であれば画家は職人集団であるから、代々技術を受け継いでいくことも出来たが、いまは独自の個性を創り上げなければ認めてもらえない世界である。 上村淳之画伯の絵の世界は、私の好きな徳岡神泉の絵の世界と共通の色合いを感じさせてくれる。神泉の世界よりも重苦しさがないようにも思えるのである。 掲載した《月に》、《夕日に》の柔らかな色合いは優しさに溢れている。 松園・松篁・淳之親子三代の作品を収蔵した松伯美術館では、平成二三年一二月六日から二四年一月二九日まで、収蔵作品展として「野生の神秘を写す―身近な動物から干支まで―」を開催している。 冬の奈良散策に松伯美術館を加えてみるのも趣があるのではないだろうか。 【松伯美術館】 住所:奈良市登美ケ丘二丁目一番四号 電話:〇七四二―四一―六六六六 開館:午前一〇時〜午後五時まで *入館は午後四時まで 休館:月曜日(祝・休日のときは翌平日) 料金:大人八〇〇円/小・中学生四〇〇円(特別展は別料金) 交通:近鉄奈良線(学園前駅)北口よりバスで五〜一〇分 |
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